日常 | 文字数: 937 | コメント: 0

自転車

 小学生のころは自転車でどこへでも行けると思っていた。  狩野川、防波堤の向こうには係留されているたくさんの漁船。無理矢理頼んで乗りこみみんなで船から船へジャンプして競争。2人ぐらい、落ちたかな?  もちろん、ものすごく怒られた。  まったく懲りないぼくらは我入道の細い路地裏、ベルを鳴らしながら駆け抜けゆく。川沿いを走り松林を抜けるとすぐに堤防がありその坂を登りきると駿河湾を見渡すことができる。  情緒のかけらもないぼくらはそのまま海岸への坂道をブレーキもかけずに一気に駆け下りる。  坂の下には小高い丘があり、より遠くへ、より高く飛ぶことを競う。  砂浜にめり込んだ自転車は放置して海岸線での宝物探しが始まる。  めぼしいものはめったに無い。だから、腹いせを兼ねて浜辺のたき火に爆竹、花火をすべて投げ込んで逃走する。爆音とともに漁師の爺ちゃんの罵声が響きわたる。  草ぼうぼうの岩山を勝手にインディアン山と呼びそのてっぺん、みんなの宝物を隠して秘密のアジトと称していた。松林からエッチな本を拾ってくるとみんなから賞賛の拍手。  ほんとうに、ろくな物は無い 日が暮れるまでまだ、時間はある。鬼ごっこ、カン蹴り・・・・・・      最後にカン蹴りをしたのは、いつなんだろう?  思い出せない。  気づくと前方の車のブレーキランプが消え、やっと渋滞が解消され始める。首都高速環状線C1、芝公園付近。右側にはライトアップされた東京タワーが見える。  自動車ならばどこへでもいけるはずなのに、あの頃の自転車にはかなわない。  白い光で照らされた飯倉トンネルの古びた黄色いタイルの壁を見たとき、左の走行レーンに移る。この先の3号線、渋谷、東名高速方面に行けば帰ることができる。   家に帰りたい。  125キロメートル走れば、1時間も走れば家なんだ。取引先への言い訳を考えながらもアクセルはそのまま。いや、さらに踏み込んでみたい。  「自動車だって、自分の行きたい所に、いけるさ」  ぼくは小学生のころのぼくに、そう話しかけてみたい。

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