日常 | 文字数: 959 | コメント: 0

虹の向こうに

 私は、コツコツと鉛筆で机をたたく。もうどれくらい、この進路希望調査の紙とにらめっこしているだろう?

 付き合いで待たせてしまっている幼馴染みの健太にも申し訳ない。

 あれ? そういえば……。

「そういえば、健太の夢って、子供の頃から、ずーっとパイロットだったわよね。それって、どうしてだっけ?」

 私は、健太に尋ねた。実は、進路希望調査の紙に書く候補がまったくないわけではないのだ。

「あれ? 言ったことなかったっけ?」

「うん、男の子らしい夢だなー、と思って、疑問に思ったことないから」

「俺、小学校2年の時に担任の先生に質問したんだよ。『虹の向こうには何があるんですか?』って。そりゃもう、ワクワクして」

「ふーん、それで、先生の答えは?」

「『空だよ』って」

「なにそれ! つまんない!」

「俺もそういったんだ。『つまらない』って。そうしたら先生、なんていったと思う?」

「なんて言ったの?」

「『つまらないのはお前だよ! いいか? 虹を超えて向こうに行ったそのまた向こうのまた向こうまで、ず――――――っと空なんだぞ! それでワクワクしねー奴の方がよっぽどつまんねーよ』」

「それを聞いて健太は……」

「なんだかワクワクしてきて、その果てしない空を無性に飛びたくなって、パイロットを目指すようになったんだ」

「そっかぁ、そんなことがねぇ」

「いい話だろ」

「自分で言うか?」

「ははは」

「そっか、でも、ありがと」

「なにが?」

「私も、とりあえず進路表に書くこと決まったから」

「え? なに? まさか、パイロット?」

「そんなわけないでしょ、先生よ」

「えっ?」

「迷ってたんだけどね。私もいつかそんな素敵なことの言える先生になってみたい」

「なれるよ」

「えっ?」

「なんだって、どんな夢も、憧れることから始まるんだよ、きっと」

「どうしたの? なんだか今日の健太、かっこいいよ」

「俺は、もともとかっこいいの! じゃあ、さっさと進路希望調査の紙書いて出しちまおうぜ!」

「うん!」

 私は元気よく答えた。

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