ジョーク | 文字数: 2975 | コメント: 0

『第16回祭り作品について 裏話』

 ※注1:この作品は【第十六回 超短編小説祭】における。ジョーク作品です。
    もし祭りのことを知らない人が呼んでも意味がわからないと思います。
  注2:祭りとは匿名で作品を書いて作者を当てるものですが、作者は毎年『クワガタ』を勝手にキーワードに入れて当てられています。
  注3:あくまでジョーク作品です。あしからず。

 O県某所のホテルのホールにて緊急記者会見が開かれる。
 一人の男が、白布がかけられ机に手を置いて、静かに座りマイクのスイッチを入れた。

「本日は、【第十六回 超短編小説祭】における私の作品に対する発表に関して、お詫びと報告をしたいと思います」

 重々しく口を開くのは、スーツに生きたクワガタを20匹ほど付けた作者(茶屋)だった。
 記者がペンを片手に茶屋を指さす。

「祭り作品が発表されていますが、今年は『クワガタ作品』がありませんでした。作者はクワガタを捨てたのですか?」

 ザワザワと会場に動揺が満ちる。そんなん誰も気にしていなかったからだ。
 ぶっちゃけ、作者が『クワガタ』を書くことは誰も望んでいない。望んでいるのは作者のみだった。
 そんなことはわかっていて、半ば意地になって10年近くクワガタを書き続けていたことを記者たちは知っていた。
 この会議だって、作者の脳内で起きているものである。
 
「私は、この超短編小説会の前身であるサイトから、ずっと祭りに参加し、毎年当てられ続けられました。その数は30作ほどにもなります。今年こそはと気合を入れても『爪』のつくあの方に当てられ、台パンしたことも数知れずです。その一因は間違いなく『クワガタ』でした。昨年『山小屋の雑煮』というクワガタ作品では、すべての感想に『茶屋』だと当てられ、『爪』の方には『作者に茶屋さんと書いてるので茶屋さんです。』と撃ち抜かれる始末です、ガッデムっ!!」

 懐からハンカチを取り出し、目に当てる。その肩は微かに震えていた。
 ……時間をかけ、落ち着いたのか、作者は再びマイクに向き直った。

「そして、今年の祭りが来ました。今年の推奨作品数は2作。たった2作です。もしクワガタ作品を書いても、どうせ『はいはい、茶屋さんですねー』と当てられるのが目に見えている。下手すればクワガタの単語だけ見て作品を読まないことだってあるでしょう!! 私にはそれが耐えられなかった」

「逆切れですか?」

「クワガタなしでも当てられてんだろ!」

「言い訳は見苦しいぞー」

「実はクワガタめっちゃ、時間かけて書いていることなんて誰も知らねぇんだよ!!」

 記者達の心ない言葉が作者に投げられるが、作者は気にせず、訴えを続ける。

「うるさいっ、誰がどう言おうと私は『逃げ切り』がしたかった! 2作のうち片方をクワガタにすれば残りの片方のみで逃げきることは困難だった。だから……プランBを選んだっ」

 その言葉で記者達は沈黙した、正直もう帰りたかったが、作者があまりに必死なのでちょっとだけ聞いてあげようと思った。

「プランBとは?」

 心優しい記者が質問をしてくれた。

「プランBとは、『クワガタ』というキーワードを偽装する作品を書くということです。これなら、2作とも偽装作として投稿できる。しかもクワガタも入れることができる」

 作者偽装の為にクワガタを偽装するための作品を書く。それが作者の狙いだった。
 この発想に至るまでに、実はすでに今年分のクワガタ作品をかき上げていたが、没にした。

「しかし、これは非常に難しいものでした。縦書き、ローマ字、様々な方法でアプローチを考えました。作者のメモ長が4ページほど埋まり、やけ酒に走った夜もありました。そしてこれをご覧ください」

 パチンっと作者が指を鳴らし、プロジェクターより画像が映し出される。
 そこには汚い字で連想ゲームのように単語が羅列されていた。
 
【クワガタ】→【鍬、九話、クッパ、桑、くわっくわっくわっ】→【桑】→【桑がた】いける!!(なぜいけると書いたかは記憶がない、マジでない)

「【桑】を使った作品を書く! それが私の答えでした。この発想で、悲願の逃げ切りを達成して見せる。早速【桑】にまつわる資料を探し、執筆にとりかかりました。幸い手元には民間伝承のまとめにO県の希少本があり、すぐにプロットは書きあがった」

 場は完全に静まり返っていた。今年の祭り作品に置いて、【桑】がでる作品はあったが、その作品には問題があったからだ。

「作者、すみません。まさか、あの……『クワガタ』を偽装するためにアレを書いたのですか? あの1万2千字の作品を……」

 質問する記者の言葉は震えていた。だってそれはどう考えても【超短編】ではなく、場合によっては規約違反で消されてもしかたながいものだったからだ。

「クワガタを隠すなら食事の中、文字を隠すなら文章の中でしょう?」

 ニヤリと笑うその表情は殴り飛ばしたいほどにドヤ顔だった。

「馬鹿かアンタは! そこまでしてクワガタを隠したいのかっ!」

「仕方なかったんだ! これしか方法は無かったんだ! クワガタを隠すためには……これしかっ。問題は、クワガタを自然に入れる隙を探すために文章量がめちゃくちゃに多くなってしまった。これは予想外だった。6千字ほど書いた当たりで、この作品が4万字を超えることになることは明白だった」

「まだ長くなるとこだったのかよ!」

「仕方ないので、主人公が探索する場所を削ることによって、無理やりシーンを繋げたのだ。本来なら【旧虫早村跡地】【縣の家】【院長室】【村人による寄合所】等の探索する場所があり、その情報があれば主人公たちは生き残るはずだった。なんなら【小枝氏が失踪した本当の理由】とか書けてないからな!! あと黒幕は【縣氏】だ。あの事件バッドエンドで全然解決してねぇからなっ! 三坂を喰ったのは幼鳥だ、成鳥が他にいるんだよっ!」

「知らねぇよ!!!! どうでもいいよっ、誰も興味ないよ!!!!」

「クソゥ!! こうなったら、生き残った主人公に事件をもう一度調べさせて、残った謎を解明させてやるっ!!」

「誰も読まないからっ!! 一人で勝手にやってろ!!」

 肩で息をする、作者に記者達は哀れなものを見るような視線を浴びせる。
 その時、一人の大人しそうな記者が手を上げた。
 作者が指さし、質問を許可する。

「あの。作者一つ聞いても良いですか?」

「はぁ、はぁ、どうぞ」

「……クワガタを隠すのは、クワガタというキーワードで作者バレを防ぐためですよね?」

「その通りだが、それがどうした?」

「長い文章を書けば書くほど、文章のクセが明らかになって作者がバレやすくなるのでは? というか、クワガタを隠すことに気を取られて、その長文作品で作者偽装をするのを忘れていますよね」

「……………………えっ?」

【さりさえ】感想欄に続く。

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