恋愛 | 文字数: 757 | コメント: 0

好きのはじまり

「これから、どうする?」 無理に目を閉じて、眠ったふりをしていたけど、そんなのバレていた。 「んー、シャワー浴びて、そろそろ帰ろうか」 大袈裟に伸びをして、なんでも無いように言ってみる。 まっすぐ天井を見上げていても、彼が私を見ているのが分かる。 「って、そういう事じゃないよね」 私も、彼を見つめる。 彼が困っている。 「どうしたい?」 質問を質問で返してしまった。 10個も年下男子を困らせておいてなんだか楽しくなってしまう。 なかなか、かわいいじゃないか、と。 私達は、同じベッドで数時間を共にした。 「今日の事は無かったことにしよっか」 私にも恐らく彼にもパートナーはいないし、だから誰に咎められる事もなく、大人だから、10も年下の職場の男の子と朝を迎えることもあるよ、ただ、それだけ。 「……」 「大丈夫、一度寝たくらいで責任とれなんて言わないから」 彼の前髪に、そっと触れる。 あまり整えられていない濃いめの眉。 眉尻の辺りに薄いホクロがあった。 「ナツさんは、僕の事嫌い?」 今のこの状況に、そぐわない質問だと思った。 何を考えているんだ、とも…。 ねぇ、ちょっとむこう向いて、と彼を横向きにさせる。 彼の背中を包み込むように、腕を回した。 「…私、好きな人にこうするの、好きなんだよね」 「僕も、好きな人にこうされるの好きです」 偶然ですね、と言ういい方はまるで仕事終わりの「お疲れ様でした」と同じトーンだ。 返事の代わりに、耳たぶをつねってやった。 「じゃあ、僕の事が好きって事でいい?」 彼が私の方に向き直る。 今度は、彼が私の前髪に触れる。 「僕達、同じ所にありますね、ホクロ」 彼が、私のホクロにそっと口づけた。

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