恋愛 | 文字数: 657 | コメント: 0

さくら、観る会

一人暮らしの、マンションの周りをふらっと散歩してみると、引っ越し業者のトラックがやたら目についた。 そうか、もう春か。 当たり前だけれど、季節は巡る。 私にも、引っ越しをした春があった。 もうどのくらい前だったろう…そんな事を考えていたら、上着のポケットに入れていたスマートフォンが震えた。 「お、早かったな!」 「ちょうど私も近くにいたから」 私たちは、中学の同窓会で30年ぶりに再会した。 学生時代、特別に仲が良かった訳ではなかった。 ただ、この年齢で再会し、お互い都合の悪い事は多少割愛しながらも話をしてみると、中学卒業後、生きてきた境遇がとても似ていたのだ。 二人とも、一度の結婚を経験し、今は独りになっていた。 私たちが通っていた学校近くの公園に出てこないか、と連絡がきたので寄ってみると、缶コーヒーを片手にベンチに座る彼がいた。 彼、というかおっさんだな。 人の事は言えないけど… 「暖かくなってきたね」 「そうだねぇ」 そう言うと、彼は「あれ?」と私の髪に手をのばした。 「ん?何」 「いや、桜の花びらでも付いてるのかなと思ったんだけど…」 「え?いや、まだ桜咲いてないし」 「うん、違った。白髪だった」 「へ?」 私たちの距離は、とても近くなっていた。 慌てて目をそらそうとしたのだけれど、気が付くと一瞬、唇が触れた。 「桜咲いたらまた来ようか」 「あ、うん。って言うか白髪って?」 「いや、それは気にしなくていいよ」彼は笑っていた。

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