旧祭り | 文字数: 554 | コメント: 0

意識の研究

 記憶というものはどうもいい加減のものらしい。 あの時、ああだったでしょと言われると、そんなことは覚えていないのに、 そうだったかと思ってしまう。    卒業式のとき、ばったりおふくろ連れの俺とあったでしょ、といわれても愛には記憶がないのだ。 でも卒業式の日にたしかに啓に会って、何人かでどこかへ行き、愛は啓に今までずっと好きであったことを、 告白したんだ。啓はそんなこと思ってもなかったと言って、取り合ってはくれなかった。 衝撃的だったことだけは覚えている。  でも意識の中では、啓を好きであることは好きなのだけれど、現実性を帯びてなかった。 なんというのだろう、想像できないのだ。 たとえ現実になったとしても、世間知らずで、個性を持たない愛が あの頃の希望や野心いっぱいの啓と暮らしても、神経を患うだけだったろうと思う。  好きだ好きだと思っていても、一年くらいすれば、人はバカバカしくなっていく。もう違う方向に行こうと 思うもの。愛もお風呂に入って髪を洗ったら、気分が変わった。  その後、愛も普通の結婚ができて、その結婚も山あり谷ありで、笑ったり泣いたりで生きてきた。 そんな中で感じてきたことを、ときには短編小説にでも書いてみようかと思うのだった。

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