旧祭り | 文字数: 2647 | コメント: 0

取り調べ

 小さな所轄の警察署、その一室。壁に染み付いた黄ばんだシミと消えそうな電灯がジジジと音を立てる。  隣の部屋からマジックミラー越しに部屋を見る。  灰皿とデスクスタンドのみが置かれたグレーの机の前に、不敵に笑う男がいた。  年は……30代前半、体格はかなり良い。 「それで、アイツが星ですか?」  真新しいスーツを着た新人が、上司とこそこそと話している。   「そうだ。ただ、決定的な証拠がなくてな、証言さえ取れれば立証できるんだが……。まぁ、取り調べをするのは、『落としのヤマさん』だ。すでにネタを掴んでいるらしい」 「災難ですね。元本庁のエリートデカの取り調べを受けるなんて」 「そうだな。……どうした?」  コンコンとドアがノックされ、職員が入ってきた。 「何、そんなことが……おい、新人」 「どうかされたんですか?」 「ヤマさん。今日、孫の運動会らしい。どうしても外せないようだ」 「そんな。犯人はもうそこにいるんですよ」 「いい機会だ。お前が取り調べをしろ。なぁに心配はいらない、ヤマさんがネタをメモしてくれている。それを見て揺さぶりをかけれ」 「えぇ……」  ということで、急遽新人が取り調べをすることになった。  上司が言うには、机の引き出しにメモが入っているらしい。犯人に舐められぬよう、新人は顔を引き締めて入室した。 「おい、取り調べを始めるぞ。嘘をつくと、そちらが不利になる。正直に応じるように」 「……わかったよ。さっさとしてくれ。言っとくが俺は関係ないからな」  犯人は以外にも受け答えは素直。これは簡単かもしれない。机を開けるとメモが入っていた。 【ときには/ 短編小説/ 意識の研究/ 人/ なっていく/】 「……」  新人に衝撃が走る。しばし長考、何が起きているかを整理した。   おそらくこれがヤマさんのメモだろう。この犯人から自白を聞き出すためのキーワードに違いない。  ただし、新人は事件の概要を全く知らなかった。というかヤマさん以外だれも事件の概要をしらない。  そんなこと、通常起きるはずもないのだが、起きてしまったのだからしょうがないのだ。  つまり、新人はこれからこのキーワードを使って犯人に事件を、こう、いい感じに語らせなければならない。  隣の部屋では、上司がこちらを見ている。下手なマネはできない。新人は慎重に口を開いた。 「そうだな……今日はいい天気だと思わないか」 「外、雨だけど」 「雨の方が都合がいいんじゃないのか、お前の仕事だとな」 「……まぁ、そうかもな」  よっしゃ、ヒントいただきました。天気に影響されると、室内で行われることが多い万引きではないだろう。  物取りか強盗か、あるいはさらに重篤な犯罪か。  キーワードは大事に使わなくてはならない。 「話を続けるぞ、お前の仕事は【人】を扱っているな。詳しく話せ」 「……? 何言ってんだ。人なんて関係あるわけねぇだろ」  新人痛恨のミス【人】に関係ある仕事ではない模様。  挽回できるか。 「お前、自分でも気づいていないのか? よく考えて喋れよ。ちゃんと記録されているんだ」 「だから、【人】なんて関係ねぇよ。そりゃあ【ときには】手伝ってもらうこともあるが」 「そこで【ときには】を使うな!」  貴重なキーワードを消費されてしまった。 「何言ってんだコイツ!」 「こっちは残り3つなんだよ。いいか、よく考えて喋れよ。お前の仕事は天気に関係していて、【人】に【ときには】手伝ってもらっている。深刻な犯罪である可能席が無きにしも非ずだ」 「ふわふわしてんな。なんだよ無きにしも非ずって……わかったよ、考えて喋るわ」 「それでいいんだ。時に、お前は何か……そう、宗教とかにハマっているんじゃないか? サロンとか訪問とか」  おっと、ここで新人おそらく【意識の研究】を切り崩しに行った。単語の意味はわからないが、何か怪しげな新興宗教を騙った詐欺の可能性を探るようだ。 「サロン? なんだそりゃ。まぁ宗教っていったらそうかもしれねぇけどよ」  うーん、これはどうだ? 詐欺のような感じはしない。  目の前の男は粗雑な男のようだ。おそらく詐欺のような行為からは程遠そうだ。  ただ、思想のようなものはあるらしい。職人気質とでも言うのだろうか?   「では、常に進歩しようと意識し、工夫しているんだな」 「それはそうだ。1日だって無駄にはできないからな。立ち止まったら俺たちの仕事は成り立たねぇ」  見上げた根性だ。それが犯罪だというのだから残念極まりない。  天気に左右され、時には人を頼り、上昇志向が強い職人気質。  フム意外とまとまってきたな。後は犯罪を認めさせよう。  時数もそこそこになってきたので、新人はまとめにかかる。 「正直なところ、君を誤解していたようだ。君は誇りある仕事をする人らしい」 「わかってくれて嬉しいよ。さっさとここから出してくれ」 「……しかし、罪には罰だ。時として誇りを持つ人は道を外すように【なっていく】だろう」 「……あんたに何がわかる」  そこで初めて、犯人は身を乗り出した。何か思うことがあるのだろうか? 「お前のことなんてわからないよ。わかるわけがない、だがそろそろ取り調べの時間も終わる。君がしたことを話してほしい」 「あんたは俺がどんな罪を犯したっていうんだよ」 「お前は『             』」 ※※※※※  さぁ。新人は何と答えたのか。ながながと続いた取り調べだが、答えは読み手に託そうじゃないか?  なぜならこの話は感想を強要し、結果を要求できるのだ。  なぁに簡単なことだ。自分の作品が投稿し終わって暇なら、この作品の続きを感想欄にでも祭り作品にでも投稿すればよい。  怒らないでほしい【短編小説】はいつだって、読み手がいることで成立するのだから。  特に読み手が作者であるこのサイトではね。 「落ちがないんじゃないだけじゃないか?」 「上司に怒られたくないんだよっ!」

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