旧同タイトル | イベント: 同タイトル | 2022年11月 | 文字数: 651 | コメント: 0

面も白けば、尾も白い

🗡️ 一番槍

声がする。 オモシロイ オモシロイ 腹が立った。 面白いものか 何が、面白いものか この世に面白いものなどない 人生は、ただただ 悲しいだけだ 虚しいだけだ なのに、 この声ときたら、 さっきから、 オモシロイ、オモシロイ、 繰り返し、 耳元で何度も囁く いい加減にしろ いい加減にしてくれ 面白くない ナニモオモシロクナイ また聞こえる。 オモシロイ 面白いぞ 「もう、いい加減にしろ!頭が割れそうだ!気が触れそうだ。何度も何度も面白いと。そんなに言うなら、そのオモシロイとやらを見せてくれ!見せてみろ?」 一週間前に、母を亡くし、何もかもが嫌になり、何もかもが虚しく、何もかも悲しく、何もオモシロイことなどなくなった私。見せれるものなら、そのオモシロイものとやらを見せてみろ。やれるものなら、やってみろ。 突然、地が裂け、轟音が響き渡った。 その裂け目から、角を覗かせ、顔を出した。 「汝、悲しむことなけれ、汝、悲しむことなけれ。人生はオモシロイ、オモシロイ。母とも、オモシロイことあっただろう。思い出せ、思い出せ!もう泣かないで。もういい加減泣くのをやめて、坊や。」 地上に姿を現した白龍はそう言うと、瞳から大粒の雫をこぼした。 母に似たその龍は、目の前の空を泳ぎ、やがて長い体を震わせ、天へと駆け登った。 その姿、面も白けば、尾も白かった。 僕はやっと泣き止んだ。

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