日常 | 文字数: 706 | コメント: 0

おむすび

 ネコと仲良くするネズミみたいに、貴方とおむすびは仲良くできるだろうか。


 朝起きて、貴方が仕事に行くときに、おむすびは名残惜しくも見送ってくれるだろう。
 帰ってきたら、お風呂を沸かして待っていてくれる。ぽちゃんとお風呂に落ちて、お茶漬けになったら大変だ。パリパリの海苔が湿気ってしまうかも。
 夜はなかよく布団で眠るのだ。貴方は気持ちよく眠りにつくだろう。おむすびを食べる夢を見て、目が覚めて、寝ぼけた貴方にかじられたおむすびが、そこにあることに気がつくだろう。
 貴方は泣きながらおむすびを食べるのだ。ごめんなさいと謝り、泣きじゃくって、おいしいおいしいとおむすびを食べるのだ。
 おむすびにも、食べさせてあげたかったな……なんて馬鹿なことを考えながら、いつのまにかまた貴方は眠りにつくのだ。
 腹を満たされ、至福の時 。じつに質の良い眠りにつくことだろう。


「なあに、貴方。そんなにじいっと見つめて」
 家内が恥ずかしそうに笑うので、僕は慌てて背を向けて目を閉じる。
 起きている間はいい。しかし、一度眠りについてしまったなら、僕は彼女に何をしてしまうか分からない。
 家内も家内だ。食べたくならないように、ガリガリの女性を選んだというのに。
 結婚した当初はあんなにスリムだったのに、最近は少し太ってきた。あんなに美味しそうなのに、僕は眺めていることしかできない。
 他の食べ物では、絶対に満たされないから、尚更辛い。
 そんな僕の後ろ暗い気持ちなんか知らずに、家内がおやすみをいう。

 僕は一体 いつまでおむすびとなかよくしていられるんだろう。

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