夜を歩く
準備は大事だ。丈夫なリュックに生姜湯を入れた魔法瓶を入れて、邪魔にならないように色々詰め込んで、
後は……そうね、包装されたクッキーを金属の缶に入れて蓋をした。
靴紐は解けないように強く結び、大きなライトをもった。
マフラーを巻いて、さぁ出発。
道の真ん中を歩く、この広い道があたしだけの為にあるみたい。
何の変哲もない夜の公園で一息つく。
コポコポと生姜湯をコップに注ぐ。クッキーを一つ取り出し食べる。
このクッキーって何製なんだろう。
温かいのだろうね。うん幸せだ。こういうのは気分が大事だ。野暮なツッコミ禁止。
錆びたブランコは誰も乗ってないはずなのに、キィキィと揺れている。
床が割れた滑り台。トテトテと階段を登る足跡だけが響く。
静かな夜だ。見上げれば歪んで見える月が綺麗。
お月様と目があった。じっとこっちを見つめてる。
気まずいので挨拶をすると、プイっと隠れた。うむ恥ずかしがりや。
公園を後にして、道を行く。
自動販売機を見つけた。足元に十円玉、ラッキー。
突き当りはT字で何となく左を選択。ゴチン。見えない壁。
通れない、どうしよう。戻って右の道を行こうか振り返ると、おっきな目ん玉がこっちを見ていた。
やばそう、逃げ道がないね。強行突破しかないかな?
目ん玉に石を投げて、横をすり抜ける。ダッシュダッシュ。
目ん玉は追ってこない。悪いことしたかな。
まぁいいや、夜はまだ終わらない。
商店街についた。目的地にしていたわけじゃないけどね。
入口すぐの薬屋、火浣布ありますの看板の下で、老いた猫が丸まっている。
こいつだけはずっといるな、クッキーを上げるとカリカリ食べていた。
歩いていると爆音発生、バイクのエンジン音だ。
夜の商店街をバイクが走る。何度も見た光景だ。
進入禁止の看板を乗り越えてさぁくるぞくるぞ。
バイクは派手に横転して炎上した。しばらくすると火と一緒に消える。こんな場所なのになんで燃えるのか不思議。
あのバイク乗りはいつもこの時間に事故を繰り返す。おもしろいね。
お札が張られたシャッター、ラッカーで塗りつぶす。これ嫌いなんだけどいつも張りなおされるんだよね。
商店街の道祖神様にクッキーをお供えして、次の場所を目指す。
別に決められた場所がいくわけでないけれど。
学校にでも行こうかな。近いし。
木造の学校は今だ腐らず健在。建材が丈夫なのです。うーんいまいち。
入ると、キャッキャと声だけが響いている。たまには姿を見せてくれてもいいのよ?
木工室で小さな指輪を見つけた。この指輪拾うの何回目だっけ。
理科室では蟲の標本がある。クワガタと蝶の標本がお気に入り。
適当な場所に置いても次に来るまでに整理された場所に戻っている。素晴らしい。
図書館の本はもう全部読んだけど、プラネタリウムの本がお気に入り、ここからは星が見えずらいのです。
辛うじて月が見える程度だからねぇ、世知辛い世の中です。宇宙の神秘に思いをはせて図書室をでる。
一年の教室、私の席で手紙を書く、拾った指輪を入れて、封筒に入れる。
学校からでて駄菓子屋横のポストに投函……入らない。みっちり詰まっていた。
誰だこんなに手紙だしたやつ、あたしか。
あと行ってない場所はないかな?町役場があったっけ。
役場に到着。特に何もなし。掲示板を見るといつも見る張り紙がある。
『お知らせ。19○○年1月10日をもってこの地区はダムにより沈みます。
住民の移転先は下記の連絡先にご確認してください。
なお、現在○○宅の○○ちゃんが行方不明です。事故当時散歩に行くと家を出てから消息不明です。
特徴は大きなリュックとライトを持っているとのことです。
両親は大変心配しています。もし見かけたら××ー××××ー××もしくは下記の住所までご一報ください』
ここはダムの底、永遠に夜の町。
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